スペインの移民問題 〜アフリカからボートで押し寄せる移民達〜

スペインでは夏が近づくと増加するニュース、それが海を渡って来る不法移民の流入です。

なぜこの時期に不法移民が増加するのでしょうか?

それは、海を渡ってスペインへ入国しようとする際、暖かい季節の方が生きてたどり着ける確率が高いためです。

ひとくちに移民と言ってもスペインには様々な国からの移民が存在します。

ここでお話しするのは、アフリカ大陸からスペインにやってくる移民についてです。

スペインはヨーロッパにありますが、そのすぐ南はアフリカ大陸です。その間にはジブラルタル海峡がありますが、スペイン最南端の岬からアフリカ大陸(モロッコ)まで、なんとたったの14kmしかないのです!スペイン南部のアンダルシア地方の一部の海岸からはアフリカ大陸を目視できる程の近さです。

たったの14kmであれば簡単に渡れてしまいそうな感じがしますが、実はこのジブラルタル海峡は、世界で最も危険な海峡の1つとも言われているのです。

ジブラルタル海峡は、大西洋と地中海が交わる場所であることから、非常に強い潮流が発生し、高い波と強風で知られています。また冬は水温が低く、またサメも生息していることから、移民が使う小さなボートや筏(いかだ)は簡単に転覆し多くの死者を出すのです。

それでも、貧困から逃れるためにアフリカからやって来る移民達は、決死の覚悟でこの海峡を横断してくるのです。

 

では、どれほどの移民がこの危険な海峡を渡ってアフリカ大陸からスペインへやってくるのでしょうか?

昨年2017年は、確認されているだけでも800隻以上の小さなボートで、1年間になんと「1万7614名」の不法移民がアンダルシアの海岸に辿り着いたと言われています!

その数は年々増加傾向にあるため、ひょっとすると今年はその数を上回るかもしれません。

また、この数はスペイン側へ辿り着くことができた移民の数ですから、もちろん辿り着くことができず途中で命を落とす多くの移民がいることも現実なのです。

生きてジブラルタルを渡れる可能性が高くなるこの季節、流入してくる移民の数は増加しますが、それと同時に多くの遺体がスペイン側へ流れ着いたというニュースも後を絶ちません。

彼らは、この危険な海峡を横断するには到底不可能と思えるような小さなボートで、遥かに定員を超えた状態でやってきます。それは、スペインでは「死のボート」とも呼ばれています。背景には悪徳ブローカーの存在もありますが、その根底にはやはりアフリカの貧困から逃れ、なんとかヨーロッパで生き延びたいという思いがあり、死の危険と隣り合わせの海峡横断を行ってしまうのです。

 

では、スペイン政府は押し寄せて来る移民に対してどう対応しているのでしょうか?

もちろん送り返すということもありますが、実際には彼らの受け入れに寛容な傾向にあります。

そのような理由から、移民としては一度ジブラルタル海峡を渡りきってしまえば、ヨーロッパに残ることができる可能性が高くなるのです。

 

スペインがこんなにも大量の不法移民を受け入れているという事に対して、島国の日本人の感覚からすると衝撃的ではありますが、なぜ不法移民を受け入れているのでしょうか?

その理由の1つは、返還を試みても全ての移民に対してそれを行うことが実際にできないためです。
彼らは、アフリカ最北端のモロッコの海岸から、スペイン、アンダルシアの海岸を目指します。しかし、移民達はモロッコ人ではありません。
移民の多くは、アフリカ中の様々な国からやって来ているのです。その多くはサハラ砂漠以南の地域から来ているというデータもあります。彼らはまずそこから北アフリカのモロッコを目指し、そこでボートに乗りスペインを目指すのです。
もちろん身分証やパスポートなど持っていません。1つの国や地域からやって来ているわけでもありません。話す言語も様々です。そのような移民が夏期に集中して毎日のように、合計で1万7000人以上も押し寄せてきたら、それぞれの出身地域をどのように調べ、どうやって個々を送り返すことができるでしょうか?また、その費用はスペイン国民の税金から賄わなければならないのです。

 

そして、スペインが不法移民を受け入れているもう1つの理由は、彼らは不法移民ではありますが、同時に彼らを「難民」であると見なしているからです。貧困問題や戦争など、アフリカの抱える様々な問題から命がけでスペインに助けを求め逃げてきている人達であると。
よって、そのような人々を不法入国者だからと言って、小さなボートでやってくる丸腰の彼らを武力で攻撃するような非人道的な行為をスペインは行わない方針なのです。仮にボートを着岸させないようにしたところで、彼らは海で死んでしまうことでしょう。さらに、移民達は生きて着岸できたとしても瀕死の状態であることが多いのです。その中には幼い子供や妊娠した女性もたくさん含まれています。

そのような理由から、まずは人命救助を第一に移民と向き合い、彼らに助けの手を差し伸べているのがスペインの現状なのです。

 

着岸に成功し、ヨーロッパ大陸に残ることができた移民達の目的は、必ずしもスペインで生活することではありません。陸続きのヨーロッパで、EU内の人やモノの移動は自由です。彼らは、スペインを「ヨーロッパの玄関」と捉え、そこから仕事を求めヨーロッパ各国へ散っていくのです。

 

もちろん、スペイン国内にも様々な意見があります。移民を受け入れないようにすべきだという意見もありますし、移民を受け入れている現在もその状況が良いとは言えません。受け入れられた移民の多くが言葉の壁や文化の違いにより、仕事が得られなかったり、地域に馴染むことができなかったりと、問題はまだまだ山積みです。

 

この問題は、決してスペインだけの問題ではありません。EU全体の問題であると同時に、日本を含めた私たち先進国の人間が深く考え、向き合っていかなければならないアフリカの貧困問題が根底にあるということを決して忘れてはなりません。

 

急増する移民の流入、受け入れ、その後の対応、みなさんはどう考えますか?

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